妹
私の父は家に寄り付かない人だったので、失明した私は3歳から盲施設で暮すことになった。だから自分の家族と暮したことがない。姉と妹は母と暮したが、生活は苦しいものだった。
その妹が結婚してから子供をつれて我が家に遊びに来たことがあった。
まるで実家に帰ったかのように「今日は遊ぶぞー」と、私達に子供をまかせて琵琶湖で釣りを楽しんだ。一人っ子の妻は「和子ちゃんがね私のことお姉さんって呼ぶのよ」と、ちょっと恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうに言っていた事を思い出す。明るくて、オテンバでオチャメな妹だった。
ある4月の穏やかな日、電話が鳴った。
「和子が亡くなった・・・」一瞬、体がこわばり、時間が止まった。産院で2人目の男児を産んだ直後、出血多量で亡くなったのだ。
27歳だった。
兄弟でありながら、数えるほどしか一緒にいられなかった妹がいなくなってしまった。目が見えないことや、家族と暮らせないことなど、自分の力ではどうすることもできない「変えられないこと」を受け入れることには、すっかり慣れていると思っていた私も、この時ほど「受け入れること」の難しさと、辛さに苦しんだことは無かった。
最近、20年余りたってようやく・・こうして妹を思い出すことができる。
あの時、和子が命を託した「和也君」は今23歳。
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