権座・水郷を守り育てる会 会長 東房男さん (64歳・近江八幡市在住)
4年前に国の重要文化的景観第1号に選定された近江八幡市北東部の水郷地帯地。その西の湖の飛び地「権座(ごんざ)」では今でも田舟で湖を渡りながら農業が営まれている。貴重な湖上の原風景を後世に守り継ぐため、酒米「渡船」で作った地酒「權座」(ごんざ)が誕生した。
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4年前に国の重要文化的景観第1号に選定された近江八幡市北東部の水郷地帯地。その西の湖の飛び地「権座(ごんざ)」では今でも田舟で湖を渡りながら農業が営まれている。貴重な湖上の原風景を後世に守り継ぐため、酒米「渡船」で作った地酒「權座」(ごんざ)が誕生した。
西の湖にぽっかりと浮かぶ島状の飛び地が権座だ。東さんが住む白王町には昔は浮島が7つあったが、干拓地にされたときに埋めたてられ、唯一残ったのが権座だった。
広さ2.5haの島では昔から米が作られてきた。陸からわずか500mしか離れていないのだが渡るには舟が必要で、農作業には陸地にない苦労がある。田舟3そうをロープでつなぎとめ農機具を載せて運び、収穫した米も舟で運ぶ。田は区画整理されていないし、権座で倒れても誰も気付かないので1人で作業はしないようにする…など、農業を営むにはやっかいな土地だ。
だが、それゆえ昔と変わらない風景が残った。陸の区画整理された田にはいないおたまじゃくしが元気に泳いでいる。虫もいるし、生物がすみやすい環境が残っている。
そんな権座が注目されるようになったのは、2006(平成18)年に西の湖一帯が国の重要文化的景観に選定さてから。同年NPO法人主催で開かれた「権座コンサート」には800名もの人が集まり、訪れた人から「こんな素晴らしい風景が残っていたのか」「癒された」といった感想が寄せられた。
外部の声で権座の魅力に気づいた東さんたちは、2008(平成20)年10月、「権座・水郷を守り育てる会」を設立した。メンバーは町内の人だけでなく、酒蔵、NPO団体、日本酒愛好家など現在160名。美しい景観を後世に守り継ぐのが目的だ。
権座を守り育てる手段として注目したのが酒造り。滋賀県には幻の酒米とも呼ばれる品種「滋賀渡船6号」がある。昭和初期に県の奨励品種に認定されていたが、栽培が難しいうえに収量が少ないので、長らく生産が途絶えていた。「渡船」の名称がうってつけであることから、この米を復活させて地酒にして権座の名物にしようとのプランが持ち上がった。
H20年に初めて権座で「渡船6号」を作付け。36俵取れた米で純米吟醸酒を作った。ラベルにもこだわり、西の湖のヨシを手すきした和紙を使った。酒造りには地元の喜多酒造が協力してくれた。
「みんなで作った地酒です。口にふくむとさっぱりしているのに、のどを通ると重厚な味わいを感じるお酒に仕上がりました」と東さんも大満足。売れ行きは好調で、今年は昨年の倍の酒米が作付けされる。
活動のモットーは「楽しくやること」。義務感や使命感よりも楽しさを原動力にするのが東さんたちのやり方だ。
権座の田んぼに「水田魚道」を設置、在来の湖魚が産卵でき、稚魚が安全に育つ「ゆりかご水田」を作った。田植え体験、収穫祭、権座コンサートなどさまざまなイベントも開いている。最近では里山の間伐竹を使った農業倉庫「バンブーハウス」を製作中で、今後は里山の整備のために竹チップの堆肥を使うことや、権座の周囲の石垣の補修もしていきたい…と、お楽しみの種は尽きない。
イベントで権座を訪れた人に「何もないところへようこそ」と言うと、「何もないところがいい。懐かしい風景に出合えてよかった」の答えが返ってきたきたという。
「訪れた人に喜んでもらえるとうれしくやりがいを感じますね」
(取材:福本)
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