ヴィオリラ奏者・音楽講師 井田 清美さん(大津市在住・62歳)
音楽教室の講師を長年務めてきた井田清美さん。13年前に遭った交通事故で後遺症を発症、1度は音楽の道をあきらめかけた。しかし、闘病中に「新しい弦楽器」であるヴィオリラと出合ったことで、新たな人生を手に入れた。
滋賀県の観光ガイドやエリアガイド、グルメガイドなら滋賀ガイド。地域情報満載です!
音楽教室の講師を長年務めてきた井田清美さん。13年前に遭った交通事故で後遺症を発症、1度は音楽の道をあきらめかけた。しかし、闘病中に「新しい弦楽器」であるヴィオリラと出合ったことで、新たな人生を手に入れた。
音楽が大好きで、人に教えることも大好き。大学在学中の20歳からピアノやエレクトーンの講師を務め、生徒が音楽好きになったり、上達してプロに成長する姿に喜びを感じてきた。
ところが、1999年、赤信号で停車中に10トントラックに追突されて車が全壊。頸椎、胸椎、腰椎をねんざし入院することになった。
退院後も、目まいや身体が思うように動かせなくなるなど体調が戻らず、頭から腰にかけて激痛が走る毎日。入退院を繰り返すこととなった。記憶障害で生徒の名前が思い出せなくなったり、買い物でお金の計算ができないなどの苦労もした。
以前のようにピアノやエレクトーンを弾くのは難しくなったが、それでもパソコンを使って作曲したり、合唱団で歌ったりして音楽と関わり続けた。
講師活動もなんとか続けた。自分のもとへ通う生徒たちが生き生きと音楽に打ち込む姿は大きな励みになったという。
2004年10月、脳脊髄液減少症と診断され治療を受けた。その後体調が改善してきたことで、新しいことにチャレンジしてみたいという気力が湧いてきた。そんなとき、ヴィオリラという弦楽器があることを知った。ヴィオリラは21世紀になってから日本の楽器メーカーが大正琴をベースに開発した楽器で、キーボード感覚で弾ける新発想の弦楽器だった。
数字の書かれた鍵盤ボタンを左手で押さえ、右手で弦を操作するだけで美しい音色が出せる。弓で弾くとバイオリンやチェロに似た音色、ピックを使って弾くと大正琴、指だとギターやマンドリン、スティックでたたくとツィンバロム(中欧・東欧の打弦楽器)のような音色が出て、鍵盤を左右に揺らせばビブラート(音の揺れ)も表現できる。
弾き方によってさまざまな音色が出せるのが面白く、2カ月で講師の認定試験に合格した。
講師としてだけでなく、演奏活動も始めた。リハビリに頑張る人を勇気づけたいと2008年、千里リハビリテーション病院(大阪府箕面市)で演奏会を開き、自身の闘病体験談も交えながら演奏を披露した。体調を見ながらの演奏活動だったが、患者が喜んでくれるのがうれしくて、1年に3回も同じ病院で演奏した。
やる気をなくしていた患者が、井田さんに刺激されて昔やっていた大正琴を取り出し、病室で弾き出したと聞いて感激した。
ところが、再び病魔が襲う。2010年、頸椎の脊椎間狭窄症を発症し、右手がまひ。手術をすることになった。
もう演奏活動から引退する時期なのかも……2年間休業して考え続けた。しかし、ふとリハビリ病院で活動していたころのことを思い出した。「あのころは患者さんに『あきらめないで頑張って!』とメッセージを送っていた。今度は自分にそのメッセージを送ろう。一人でも多くの人に音楽の素晴らしさを知ってもらうためにもう一度、頑張ってみよう」
2012年、東京・赤坂のライブハウスでの演奏会に参加。カルチャー教室の講師としても活動を再開した。
ウィーン国立オペラ座でヴィオリラアンサンブルに参加したときは、6階まで満席の観客から、あたたかい大きな拍手を受けた。
「音楽は私のライフワーク。事故に遭わなければヴィオリラに出合っていなかったと思います。どんな状態でもあきらめずに夢を持って続けていれば新しい人生が開けていく。これからも講師活動を中心に、命のある限り音楽を続けていきます」
(取材・鋒山)
本ページの情報は作成時のものであり、変更されていることがあります。あらかじめ御了承ください。