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掲載日: 2012.10.17

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絵師 廣中 進さん(64歳)

一つの寺の風景を描き続けることで、生き様を表現している絵師がいる。安土町にある石の寺・教林坊を描く絵師・廣中進さんだ。昨年12月から約1年かけて教林坊をスケッチした作品の展覧会が、11月6日から近江八幡市の京都銀行ギャラリーで開かれる。

がんとの闘いの中出合った運命の寺

長年絵を描きながら今一つ達成感がなかったという廣中さん。60歳のときにがんにかかり、「これで終わりなのか」とショックを受けた。
幸いがんは初期だった。残りの人生、絵で何かを達成したい――。気持ちを前に切り替え、悩みながら数年が過ぎた。そんなとき知人の紹介で教林坊を知った。
初めて教林坊を訪れたとき、「あっ」と思った。カエデの古木、コケむした巨石と庭の美しさ、歴史を感じさせる書院、土の小路、土壁の厠の跡。日本の原風景をとどめた山裾の隠れ里ともいえる風情――。
なぜか分からないが以前訪れたことがあるような懐かしさを感じた。まるで思い出がよみがえるような不思議な感覚だった。
「ここをテーマに絵を描きたい!」
心の底からそんな思いが湧き上がってきた。やっと求め続けたものと出合えたような確信があった。
教林坊は紅葉が美しいことで有名だが、廣中さんが魅力を感じたのは華やかではない冬の風景。住職に事情を話し、自転車で何度も足を運んだ。1月は月に7回も訪れた。
「教林坊をテーマに、絵師としての生き様を個展で発表することが、私の人生に与えられた課題だと思いました。それほど教林坊との出合いは感動的でした」

父や友の相次ぐ死「絵師として生きる」

もともと自然の中でスケッチするのが好きだった廣中さん。京都市立芸術大学時代は日本画を専攻し、卒業後30年間、友禅の下絵職人をしながら休日を利用して趣味の日本画のスケッチを続けた。
絵師として活動に専念するようになったのは1995~96年、父や友人を相次いで失ったのがきっかけだった。心にぽっかりと穴が開き、たまらくなって亡くなった友人と行った思い出の地である京都の上醍醐へ絵筆を持って出かけた。そこには凛とした空気が漂っていて、現実を忘れることができた。自分と向き合える時間が持てたのがうれしく、何度も同じ場所に行った。その後、間もなく友禅下絵職人を退き、自然の中で絵を描く生活を始めた。

新しい表現に挑戦

版画工房と合作も画材は岩絵の具、墨、色鉛筆。最近は和紙に描いたモノクロに近い作品も多いが、今回の展覧会では新しい手法に挑戦した。野田版画工房との合作によるびょうぶ絵だ。
廣中さんのスケッチを元に野田版画工房が版画を施し、その版画に廣中さんがさらに筆を重ねて絵を完成させていく。
繊細な色合いにも思いを込め、試行錯誤しながら生まれた新しい表現の作品だ。
11月6日からの個展では、教林坊を描いた二曲びょうぶ3点、額装パネル6点と、醍醐山の作品4点を展示。15年にわたって山や自然の中で描き続けた世界が集約されている。
(取材・鋒山)

 

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