写真家 北村 勝さん(米原市在住・65歳)
耳の不自由な写真家・北村勝さんの作品世界が人々の心を魅了し続けている。写真展には数多くの人が訪れ、2001年に出した写真集は今も見る人の心を癒やしている。
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霧のかかった草原が太陽の光を受けてほんの一瞬、青白く輝く。大自然の神秘を感じる不思議な光景を無我夢中で追い求めた作品は、写真に興味のない人でも、しばらく目が離せなくなる。
北村さんは生まれながらにして耳が不自由で、音がどんなものかさえ分からず、自分に名前があることさえ知らなかった。
聞こえない苦しさ、自分の思いを言葉としてうまく表現できないもどかしさを抱きながら大人になり、印刷会社で活字を組む仕事をしていた。
28歳のとき、写真好きの妻・明美さんの勧めがきっかけで写真を始めた。
「家族のために一生懸命働いてくれる夫を応援したかったんです。酒を飲み歩くことは無く、賭け事もせず、ただ会社と家を往復するだけの人生。写真を通して音を聞き、表現する素晴らしさを知り、きらりと光る人生をつかんでほしかった」
明美さんも耳が不自由だが、子どものころは少し聞こえたので、相手の口の動きでかなり言葉が理解できる。
撮影は、明美さんの運転する車でロケに出かけたり、何日も現場に通いつめたりして、決定的瞬間を待ち続ける。
写真を始めた年に県展に出品、以後、さまざまなコンテストで賞を得てきた。
撮りためた作品をまとめた写真集「光に聴き影に訊く」を、01年に出版した。
北村さんは、「光」にきらきらした声やエネルギーが伝わってくるのを感じることから「聴く」と表現した。一方、「影」には聞こえない苦しさや迷いを自問自答する感覚があり「訊く」とした。
光と影が織りなす作品世界は、北村さんにとっては言葉であり、生きることへの思いが込められたものだ。
「レンズを通してこの世にあるさまざまな音を知りたい。表現したい」
出版を機に作品展の機会も増え、写真は、北村さんの人生を一層輝きのあるものにしてくれた。
作品は風景が中心で人の姿はほとんど写っていないが、作品に添えられたキャプションや家族の言葉から、家族の絆の強さが感じられる。
長女の直美さんは写真を撮っているので、勝さんは将来、2人展を開く夢を持っている。「作品から感じる父の静けさがとても好きです。見るたびに私の心を落ち着かせてくれます。父の耳の世界を表しているかのようです」
次女ののぞみさんも「一枚一枚のどの写真にも光が差し込んでいて父の気持ちを感じます。レンズを通して聞く父の音です」という。
(取材・越智田)
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