木工作家 石塚 辰哉さん(宇治田原市・58歳)
「人」に「木」と書いて「休」。木には人の心と体を休めて癒やす何かがあるようだ。自然の中で生活を送る石塚さんの作品には、そんな風合いがあふれている。
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「晴耕雨読」という言葉がある。これは、晴れれば田を耕し、雨なら本を読んで過ごす……自然の流れに逆らわない悠々自適の生き方を言う。
椅子やテーブルなどの注文を受け、コツコツと製作に励む木工作家・石塚辰哉さんの作品は、そんな「晴耕雨読」の生き様の中から生まれてくる。
滋賀県の県境に近い京都府の山間部に自宅と工房があり、京都市内に出るのには1時間以上もかかる。
朝起きてまず、30分ほど山を歩いて観音様にお参りする。サルやイノシシ、タヌキ、シカ、アライグマが出てくることがある。
仕事のあと、焼酎で一杯やりながら1時間ほどかけてゆっくりと夕食を楽しむ。食後はお茶とお菓子、そして読書。廃材でたいた風呂につかり、午後8時ごろから再び作品づくりに没頭。途中30分ほどギターを楽しむのが日課だ。
ゆっくりゆったり……石塚さん好みの時間が流れていく中で作品が作られていく。
「言文一致」ならぬ「生作一致」。生活も作品も自然体。余分なものがないシンプルな生き様から生まれる作品には、直線と曲線のフォルムと独自の技術から生み出された質感が漂う。
作品を作っている間は、使う人のことだけをひたすら考える。でき上がった作品を注文主へ引き渡すときは、娘を嫁に出す心境だという。だから後日、注文主から「あの子、元気にしているよ」と言ってもらえるのがうれしいとほほ笑む。
北海道に生まれ、漠然とものづくりをやりたくて大学の工学部機械工学科へ。卒業後、札幌で注文家具の工場に勤めたが、やりたい世界が見当たらず、リュックを背負って全国を旅した。行き着いたのは島根県の民芸家具工房。ここで6年勤めたがまたもや浪人。
だが、幸いにも京都の木工クラフト作家の工房でアルバイトしたのが大きな転機となった。木を使って自分を表現する……。それまでの職人的世界では体験できなかった感覚に目覚め、目からうろこが落ちたのである。
最初の作品は1984年作の「箸置き」。これで朝日現代クラフト展奨励賞を受賞。以後、京都デザインフォーラムなどに入選。1994年には念願の朝日現代クラフト展でグランプリを受賞。作品の写真が中学の美術教科書にも掲載された。
「私は作家でもありませんが、職人でもありません。作りたいものを作っているだけでしょうか……」とオトボケで語る。
愛され、使われ、キズつきながら味わいを深めていく、石塚さんの作品は使う人との共同作業で完成度を高めていくという。
(取材・越智田)
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