絵本作家 近藤 薫美子さん(大津市在住)
生まれて死んで……死んで生まれて……受け継がれていく命。そんな自然界の命の営みをトカゲやゴキブリなどの生き物を主人公にし、あるがままに描いた近藤薫美子さんの絵本が話題になっている。
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生まれて死んで……死んで生まれて……受け継がれていく命。そんな自然界の命の営みをトカゲやゴキブリなどの生き物を主人公にし、あるがままに描いた近藤薫美子さんの絵本が話題になっている。
リアルに描かれたイタチの死骸。周囲にはハエが飛び回り、朽ちていく様子が伝わってくる。一方、残された子どもたちが成長し、たくましく生きていく姿も描かれ、ユーモアのあるつぶやきで表現されている……。絵本『のにっき-野日記-』のワンシーン。
従来の絵本のタブーを破った作品として話題になった。
誕生があれば死がある。命はめぐるもので、死は生命の営みの一つに過ぎない。そんな生命のありのままの姿を、トカゲやゴキブリなどを主人公に表現している。「死も笑いに変えたい」と言う近藤さん。一見おどろおどろしいシーンが描かれているのに、読後感は暗くない。それどころか逆に、命っていいなあ……頑張れ命、命万歳……そんな気持ちになってくる。『のにっき-野日記-』を描くために、タヌキの死骸をもらってきて自宅近くに置き、じっくり観察しながら描いたが、タヌキは大き過ぎるので本ではイタチにして登場させたという。
絵本との出合いは京都の短大でイラストレーションを学んでいたときだった。友人と行った「せかいの絵本展」で絵本の芸術性に衝撃を受けた。「絵本は子どもだけのものではない」と思ったという。短大卒業後、製菓会社でパッケージデザインの仕事についたが、絵本作家になる夢が捨てきれずに1年ほどで退社。だが、会社をやめたことは家族に言えなかった。会社に通っているふりをし、ケーキを土産に持ち帰ったりもした。さらに、お金がなくなって草を食べたり、実家に帰ろうとしたがお金がなく、母にお金を持って駅まで迎えに来てもらったこともあったという。
出版社に絵本を持ち込んでから、出版するまで3年かかった。努力を重ねて最初に出版したのは『とかげのラン』。最初に出版の話が持ち上がったとき、「トカゲをネズミに変更してほしい」と言われたが、近藤さんは譲らなかった。
トカゲやハエ、ゴキブリなど、人間に嫌われる生き物にも、生態系のバランスを保つ上で大切な役目があるというのが近藤さんの信念だったからだ。描きたかったのはむしろ、このような人間に嫌われる生き物の視点だったのである。
その後、219匹のカマキリの子どもたちの物語「かまきりっこ」や、さまざまな卵が成虫になって世界を広げていく『すくすくのはら』など、1年に1冊のペースで20冊以上を出版。97(平成9)年にはスロバキアの絵画展で日本代表15人の1人に選ばれた。
近藤さんは「死」について講演会で次のように語ることがある。
「死んで無になるのではなく、残された人の心の中で生き続ける社会的な命がある。家族を自殺で亡くした人が講演を聞けてよかったと共感してくれたことも深く心に残っている」
(取材・澤井)
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