叶 匠壽庵 山川 誠さん (大津市在住・48歳)
全国から617人が挑戦し、合格者はわずか90人……。そんな厳しい「優秀和菓子職」の資格を持つ職人が滋賀県にいる。叶 匠壽庵の山川誠(やまかわまこと)さんだ。技術はもちろんのこと、豊かな発想による新しい和菓子作りが高く評価されている。
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全国から617人が挑戦し、合格者はわずか90人……。そんな厳しい「優秀和菓子職」の資格を持つ職人が滋賀県にいる。叶 匠壽庵の山川誠(やまかわまこと)さんだ。技術はもちろんのこと、豊かな発想による新しい和菓子作りが高く評価されている。
全国和菓子協会で6年前から始まった「優秀和菓子職」の試験は、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)や栗饅頭などの基本的な和菓子を作る1次試験と、テーマを決めて5種類の創作和菓子を2時間で作る2次試験とで採点される。
和菓子作り30年の山川さんも2007年にこの試験に挑戦したが、結果は不合格。「創作和菓子への挑戦の連続」とも言える日々を送ってきた山川さんにとって思いもよらない結果だった。
茶道では茶会ごとにオリジナルの和菓子を使うことが多い。季節感を取り入れるだけでなく、客との会話などにもヒントを得てどのような菓子を作るか考える。数年前、山川さんは独自の茶道菓子のブランド「不風流」を立ち上げたほどで、不合格にはショックを受けた。
この経験の中で気づいたことがあった。「試験前に練習して磨けるのは技術だけ。創作和菓子を作るスキルは日々の和菓子作りの中でこそ養えるものである」という原点に戻ることだった。
原点に立ち帰って技に磨きをかけること1年。昨年、2次試験のテーマの一つ「立(りつ)」に対して「だるま」とネーミングした和菓子を創作し、見事に「優秀和菓子職」の認定を受けた。
「決められた伝統和菓子の味を大切に守るだけではなく、その枠を少し破ってみることです。
少し角度を変えて見ると、新たな感動が生まれてきます。若い人がいうサプライズですかね」
この挑戦を通じて山川さんの和菓子の世界も変わってきた。以前は写実的な表現が中心だったが、今では見る人の心の中にどんな思いを届けたいかを考え、表現するようになった。たとえば、「桜の花の形」にこだわるだけでなく、もっと大局的に、「春のイメージ」をどう表わすか、思いをめぐらせるという。
和菓子作りは奥が非常に深い。特に茶道菓子は、茶道に精通していなければ喜ばれるものが作れないという。山川さんは修業の一環として20年近く茶道を習っている。
菓子を作る環境も大切だ。山川さんの仕事場がある「寿長生(すない)の郷」は敷地面積が6万3千坪。一般の住宅地でイメージすると1000軒以上もの家が建つ広大なものだ。広いだけではなく、緑に包まれ、野生のウサギやシカなどの動物もよく現れる。都会よりゆっくりとした時間が流れている。
「和菓子は刻々と変化する季節を表現することが大切ですから、季節の風情がたっぷり味わえる自然の中で作られる事が望ましいといえます。だから私は毎日のように、この敷地の中を歩きながら、どんな和菓子を作るかイメージするようにしています」
山川さんは、和菓子作りの基本といわれる「餡炊(あんた)き」を、今でもあえてすることがある。何十㌔もの豆を潰さずに炊き、粒餡(つぶあん)を作ることに集中する。原点の大切さを忘れないようにするためだそうだ。
(取材・鋒山)
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