叡山文庫文庫長、比叡山瑞応院住職 山田 能裕さん(大津市在住・82歳)
比叡山延暦寺の「叡山文庫(えいざんぶんこ)」文庫長で、比叡山瑞応院(ひえいざんずいおういん)住職の山田能裕(やまだのうゆう)さんは、前天台座主の故・山田恵諦(やまだえたい)師の弟子。難しい理屈よりもまず、自分の中の「生きる力」「生活する力」を目覚めさせることが大切だと説く。
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比叡山延暦寺の「叡山文庫(えいざんぶんこ)」文庫長で、比叡山瑞応院(ひえいざんずいおういん)住職の山田能裕(やまだのうゆう)さんは、前天台座主の故・山田恵諦(やまだえたい)師の弟子。難しい理屈よりもまず、自分の中の「生きる力」「生活する力」を目覚めさせることが大切だと説く。
小学校6年生で得度(とくど)を受け、僧侶の道に入った山田さん。修行の原点は「お山体験」だった。「お山体験」とは天台宗の修行の一つで、比叡山に入山して四つの修行に耐え、心と体を養うことだ。具体的には「論・湿・寒・貧に耐えること」。
まず「論」とは、勉強のこと。厳しい勉強に耐えること。次に「湿」とは、比叡山はふすまや障子が1年ももたないとほど湿度が高く、この湿気に耐える修行のことだ。「寒」はいうまでもなく寒さに耐えること、冬は布団の表面がパリパリに凍ってしまうほど寒いという。「貧」は文字通り質素な衣食住の生活に耐えることである。小学生といえば遊びたい盛りだが、夏休みも比叡山で修行をした。
「なんで僕だけ山へ行かなくてはならないんだ」
寺に生まれたことを悔やんだ。だが、このときの体験が今では逆に大きく役立っているという。
「まずは炊事、洗濯、掃除……お経の勉強はその後です。生活力を身につけさせられました」
山には電気も水道もなく、ランプに頼る生活だった。衣食住の全てを自分でまかない、食べ物も山で見つけなければならなかった。何が食べられるか、何が食べられないかを見抜く力が要求される。
山田さんは「猿、イノシシ、ウサギなどに教えてもらった」という。猿が食べる木の実、イノシシが食べる根、ウサギが食べる葉を見つけるのだ。雪の中でウサギの足跡をたどっていくとクローバーが見つかり、雪の下にワラビの根があった。特にワラビの根は貴重で、これだけで冬を乗り切る僧もいたという。
「私が炊いたご飯は今でも、家内の炊くご飯よりもおいしいですよ。何もかも、お山から教えていただきました」
食べ物だけではない。山歩きで「体」を鍛え、山の生活で「心」を鍛えた。
雄大な景色から「広い視野で物事を見ることの大切さ」を学び、四季折々に移り変わる景色や夕陽の美しさから「命に対する感謝の気持ち」を養った。
「全てお山から与えられました」
「皆さんも自分なりの『お山』を持ってください」と山田さん。
この場合の「お山」とは比叡山の「論・湿・寒・貧」と同様に、その人なりに「勉強」「想像外の湿気」「厳しい住環境」「質素な衣食住」の四つの面で苦労を積むことである。
人間は厳しい環境に耐えてこそ、眠っている能力が目覚めてくる。だから、モノがあふれ、エアコンのある生活で鈍くなった生命力を呼び戻すことが第一だという。
「仏の教えを広めるには、3つの条件が必要といわれています。法華経にある『衣座室(えざしつ)の三軌(さんき)』です。わかりやすくいいますと、ふさわしい服装(衣)、現実に対応する行動(座)、ふさわしい環境(室)が必要なんです。家庭はまさに室の原点です」
苦労があってこそ、これを乗り越えたときの感激がある。だから苦労に直面したときはこれを避けないで、逆に喜び、力強く立ち向かうのだそうだ。
著書「生きよ。―迷うな、逃げるな、甘えるな」(株式会社しょういん)で、さらにわかりやすく述べている。
(取材・越智田)
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