陶芸家 伊藤 昭人さん(甲賀市在住・69歳)
信楽で根強い人気の器があるという。作っているのは陶芸家の伊藤昭人(いとうあきと)さん。伊藤さんの器は飾って楽しむよりも、使って楽しむ方が良いというファンが多い。伊藤さんの作陶姿勢とそれを支えてきた民芸運動の考え方を聞いた。
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信楽で根強い人気の器があるという。作っているのは陶芸家の伊藤昭人(いとうあきと)さん。伊藤さんの器は飾って楽しむよりも、使って楽しむ方が良いというファンが多い。伊藤さんの作陶姿勢とそれを支えてきた民芸運動の考え方を聞いた。
伊藤さんの作るコーヒーカップは、見た目には重そうだが持ってみると重くはなく、使っていくうちに不思議な心地良さが湧いてくると評判だ。表面を削りとったシノギと呼ばれる模様が斜めに入っているのがポイントとも言われている。
伊藤さんの器を扱っている信楽の「ギャラリー有楽(うらく)」の店主・今井幹子(いまいみきこ)さんは「伊藤さんの作品は個性的ですが、使いやすいんです。長く愛用しておられる方が多く、一般家庭はもちろんのことですが、有名な料亭でもたくさん使われています。遠く名古屋から買いに来られる常連のお客さんもいるんですよ」と言う。
伊藤さんは父親の趣味もあって、子どものころから良い道具の中で育った。さらに、茶の道に通じた祖母の影響もあって、焼き物の美しさを学んだ。
転機が訪れたのは大学時代。面白い焼き物を探しに栃木県の益子に行ったとき、佐久間籐太郎(さくまとうたろう)氏の作品に出合った。
佐久間氏は民芸運動の流れをくむ陶芸家で「弟子入りをして作ってみたい!」という思いにかられた。とうとう弟子入りをし、陶芸の道に入ることになった。
民芸運動とは、「手仕事で作られた生活用品の中にこそ真の美がある」という「用の美」を追求する芸術運動。思想家、美学者の柳宗悦(やなぎむねよし)が提唱し、陶芸家の河井寛次郎(かわいかんじろう)、浜田庄司(はまだしょうじ)、版画家の棟方志功(むなかたしこう)などのメンバーで知られる。美術史で正当に評価されてこなかった無名の職人による美を発掘し、日本の工芸に大きな影響を与えた。
佐久間氏のもとでの修行は「頭でなく耳と目で学べ」が基本。寝る時間も惜しんでろくろを回した。夜遅くに来客があったときなどは自分の部屋を客に提供しなければならず、一晩中ろくろを回して過ごしたという。
厳しい修行に耐えた後、今度は京都の陶芸家、河井武一(かわいたけいち)氏に弟子入りし、五条坂の工房で住み込みの修行を始めた。河井氏は河井寛次郎の甥で、民芸運動の継承者だった。
京都で民芸のメンバーから教えを受けた後、知り合いの勧めで信楽に工房を開いた。今から約40年前。当時は細い山道が多く、夜は真っ暗で不安だった。
だが、住めば都。川のせせらぎ、木立ちを揺らす風の音、恵まれた自然に囲まれた信楽を好きになるのに時間は掛からなかった。
「料理を盛り付ける人の気持ち、食べる人の気持ち、酒を飲む人の気持ち……。さまざまな人の気持ちを思い浮かべながら、小さな器でも丁寧に作るようにしています」民芸の精神を引き継ぎ、作品に自分のサインを入れず、先生と呼ばれるのも好まない。
「これからの夢は、焼き物の町・信楽をもっと元気にすることです。信楽の若い作家には頑張ってもらいたいと思っています。だから『無名な作品』もよく見てあげてください」
(取材・鋒山)
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