金型職人 吉野 毅さん(彦根市在住・77歳)
全長2㍍50㌢、総重量200㌔を超す巨大なSL(蒸気機関車)の模型づくりを手がける吉野毅(よしのつよし)さん。この道50年以上になる金型職人だが、3年前に模型づくりを始め、仕事の合間を使ってこつこつと続けている。 「自分の技術を形あるものとして残したい」との思いで始め、完成まであと一歩のところまで来た。
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全長2㍍50㌢、総重量200㌔を超す巨大なSL(蒸気機関車)の模型づくりを手がける吉野毅(よしのつよし)さん。この道50年以上になる金型職人だが、3年前に模型づくりを始め、仕事の合間を使ってこつこつと続けている。 「自分の技術を形あるものとして残したい」との思いで始め、完成まであと一歩のところまで来た。
世界に誇る日本の技術を駆使して客の要望に応えていくのが金型職人の醍醐味だという吉野さん。 4年前に急に体調を崩し、自分の人生をふり返ってこれで良かったのだろうかと悩み始めた。 「死ぬまでに自分の技術を集大成して残しておかなければいけない。息子にも父親の思い出を残しておきたい。そんな気持ちにかき立てられました」 子どものころ、黒い煙をもくもくと出しながら走る機関車が好きで何度も駅に出掛けて行った。一方、出征する兵隊さんが乗る列車の後ろ姿に表せない寂しさを感じたという。 こんな思い出の数々と、自分が培ってきた技術をセットにして残すには、SLの模型を自分で作るのが一番だと確信した。
選んだのはD511型蒸気機関車、通称「デゴイチ」。その中で最も美しくて好きな200型だ。 幸い、鉄道会社に勤務する息子が図面作りを手伝ってくれた。小さなモデルを模型店から手に入れる一方、かつて息子と行った「多賀SLパーク」の跡地に何度も足を運び、そこに置いてある実物の機関車を観察しながら何枚も写真を撮った。 いざ作り出してみると、とんでもないことを始めたと思った。部品の数がやたらと多く、しかもほとんど同じものがない。仕事の合間に作っていることもあるが、思うようにはかどらず、なかなか形が見えてこなかった。 縮尺を60分の1と決めていたのに、計算を間違えて悔しい思いをしたことも度々あった。 しかし、いったん気持ちが乗ってくると1日に何時間も作り続けたり、一心不乱に3、4日続けて作ることも珍しくなかった。 妻の千代子さんが「やりたいことをしっかりやって……」と言いながら邪魔にならないように茶を入れてくれるのがうれしかった。 いよいよ、形が少しずつ見えてくると、不思議なことに悪かった体調がいつの間にか良くなっていたという。
全体像が見えてきた2014年6月、見た人に「これが動いたらもっと面白いのに」と言われた。 人の苦労も知らないで……と内心穏やかではなかったが、「それじゃあ、動かしてみせよう」と発奮。動くように駆動部分を改良し始めた。ただし、蒸気を発生させるのに燃やす燃料は安全性を考えて石炭ではなく、携帯用のガスコンロのガスを使うことにした。 完成したら自分の工場の中に長いレールを敷き、背景の絵も自分で描くつもりだ。子どものころから絵は得意なので「西の湖の向こうに安土山を作り、安土城の模型も置いて……」などと、今から次々と構想が膨らんでいる。 「ひっそりと楽しむつもりが、最近ではいろいろと励まされ、うれしいやら辛いやら」と話す笑顔が印象的だった。 (取材・鋒山)
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