国宝修理装潢師連盟理事長 坂田 雅之さん(大津市在住・58歳)
坂田雅之(さかたまさゆき)さんは三井寺勧学院のふすま絵や石山寺の校倉聖教など、重要文化財や国宝クラスの書画の修理を手がけてきた国宝修理装潢の第一人者だ。 自分にとって天職である文化財修理。大事なのは美術品と謙虚に向き合うことだという。
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坂田雅之(さかたまさゆき)さんは三井寺勧学院のふすま絵や石山寺の校倉聖教など、重要文化財や国宝クラスの書画の修理を手がけてきた国宝修理装潢の第一人者だ。 自分にとって天職である文化財修理。大事なのは美術品と謙虚に向き合うことだという。
江戸時代から続く商家に生まれた坂田さん。祖父は京都で寝具商を、父は古美術商を営んでいた。小学2年で滋賀に移り住み、高校を卒業したら家業を継ぐつもりだった。しかし、駆け引きが多い古美術の売買は自分に向いていないのではと考え、商売よりも文化財を修理する仕事の方に目が向いた。
文化財修理の専門業者は全国で11軒。うち5軒が京都にあり、その中の1軒に就職した。 働き始めて2年目のこと。平安時代に作られた日本で一番古い涅槃図(ねはんず)といわれる高野山の「応徳(おうとく)涅槃図」の修理を手伝った。 じっと見ているうちに、だんだん絵の美しさに引き込まれ、ため息が出てきた。 美しいものを生み出し、伝えてきた昔の人々の心を後世へつなぐのが自分の仕事だと発見し、「これは面白い! やりがいがある」と実感した。これこそ一生の仕事だと確信して一段と修業に身が入るようになった。住み込みでの5年を含め13年勤めた後、1989年に独立。自分の店である坂田墨珠堂を開業した。 書画はほとんどの場合、掛け軸や屏風などの表装(ひょうそう)の形で後世に伝えられている。表装に手を加える前に、書画をどういう状態で残すかを見極める必要がある。この調査に充分な時間をかけている。赤外線写真を撮ったり、顕微鏡で観察することもしばしばだという。 修理とはいま弱っているところを補強し、書画そのものの力を取り戻すことだ。たとえば、絵の具のニカワの接着力が弱り絵の具が剥離(はくり)しそうな場合はニカワを補充し、接着力を強化する。 繊細な技術が求められるが、書画に裏打ちされた和紙を丁寧にピンセットではがしていく「肌上げ」と呼ばれる作業が一番難しいという。
坂田さんの座右の銘は「放下着(ほうげちゃく)」。見えやこだわりを取り払い、自然体で生きていくことだそうだ。 修理する者の行き過ぎたこだわりは書画にとってはありがた迷惑ではないか。修理する者の自己満足になってはいけないと坂田さんは自らを戒める。一流の作品には必ず不思議な「美しさ」と「魅力」が備わっているといい、作品と謙虚に向き合いながらゆっくりと魅力を引き出すことが大事なのだという。 (取材・越智田)
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